カテゴリー: 講演・掲載アーカイブ

  • 清話会セミナー’13年07月:講演要旨②

    【講演名】「生前贈与」から採る賢い相続税対策

    2013年7月に清話会にておこないました講演の要旨をまとめました。

    生前贈与から考える相続税テクニック

    構成:今野靖人(清話会)

    早期からの着手が有効な対策を生む

    相続税対策の基本は、少しでも早くから着手しておくことだ。時間的な余裕があるほど、より多くの選択肢が得られるからである。そして相続のリーダーシップは遺産を遺す本人が握り、日ごろから的確な財産把握をしておくことが重要だ。

    相続対策には節税対策のみならず、納税資金対策および相続人が亡くなった後の遺産争い防止策も含まれる。特に紛争防止は大切で、私の扱う相続事案には、被相続人同士の争いがこじれて10年以上も未解決のままのものもある。その問、遺産は凍結状態になっていて、一切手をつけることができない。そんな事態に陥らないよう、遺産の「奇麗なバトンタッチ」を考えることも相続人の責務と言えるだろう。

    財産の把握と評価については、「大体どのくらいある」ではなく、正確に計算しでおかなければならない。産というのは、蓋を開けてみるといろいろなものが出てくる。相続税は亡くなってから10カ月以内に申告しなければならず、1年にも満たない短期間で被相続人が故人の遺遺産の全容をつかむことは難しい。

    そこで私が勧めるのは、不動産、預金、有価証券などの財産と、控除される借金や葬儀費用などを細かくリストアップした表を作成し、納税資金の捻出や節税対策、そして誰に何を贈与するのかを多角的に検討することだ。資産の把握と評価は、できれば毎年行いたい。そうした入念な準備こそが、有効な節税対策の第一歩である。

    納税資金に充てるのに適しているのは、保険金や死亡退職金だ。保険金は誰が受け取るかが明確で、分割協議事項の対象外となる。亡くなった時点で受取人に支払われ、相続争いの原因にはならないから、これを納税資金とするのが最も合理的である。

    遺産分割では、自宅を建てた子に対する資金援助などの特別受益分も考慮される。生前贈与を受けた、いや受けていない、という採め事は大変多いので、親は兄弟の誰にいくら贈与したかを明確にしておかなければならない。被相続人が遺言書で分割法を指定している場合も、最低限の割合である遺留分は法定相続人に相続されることも念頭に置いておきたい。

    法定相続人は法律で定められているが、その人数が増えれば基礎控除額も大きくなることから、養子縁組が相続対策にされることもある。これについても、例えば長男の子が親の養子になっていた事実を他の兄弟は知らされていなかったといったトラブルが発生する可能性がある。また、養子とした孫の相続税は2割加算されるので、孫よりも子の配偶者を養子にするほうが有利である。また、売却するかどうかで意見が分かれることが少なくないので、不動産は兄弟で共有をせず、八刀筆にするほうが賢明だ。

    ここからは、、相続税の仕組みを利用した具体的な節税対策を見ていこう。まず挙げられるのが、配偶者の税額減税制度を利用する方法だ。配偶者は1億6000万円までの相続税が非課税で、その額か法定相続の控除分のどちらか高いほうを選ぶことができる。だからと言って安易に全額、を配偶者が相続してしまうと、短期間のうちにその人が亡くなった場合、2次相続で結果的に相続税負担が増える場合があるので注意が必要だ。

    生命保険にも、法定相続人1人当たり500万円までの非課税枠がある。しかし契約者が被相続人で受取人が配偶者であれば相続税が、契約者が配偶者で受取人が子の場合には贈与税がかかる。契約者が子で受取人も子の場合は一時所得と見なされてメリットが生じるケースもある。

     

    保険金の支払いを贈与のようなかたちにすると、それまでの掛け金を引いた額の2分の1が減額されて税金が課せられる。この2分の1というのはかなり大きく、相続税よりも低くなるなら利用する価値がある。

    仮に保険の掛け金が毎年100万円であれば、子を契約者かつ受取人とし、暦年贈与を活用しながら支払う方法も有効だ。他にも生命保険には節税のための活用法がいろいろと考えられるので、専門家のアドバイスを受けながら検討して欲しい。

    死亡退職金は500万円×法定相続人の数が非課税となる。会社から出される弔慰金も、一般的に最終役員報酬の6カ月分程度が非課税だ。ただし会社側が明確に区分していないと、税務調査に際して弔慰金が死亡退職金に含まれてしまうことがあるので注意したい。

    遺産の評価を下げるという対策もある。その評価法は、宅地や山林、田畑など地目別に行う方法と、利用単位ごとに行う方法に大別され、被相続人の利用一体の場合、取得者が同じなら一体評価される。取得者が別なら利用単位ごとに評価され、被相続人の利用が別なら取得者が同じ場合でも利用単位ごとに評価される。

    これによって評価額が大きく変わってくるが、税務署との見解の相違も多いので、税理士や不動産鑑定士などの専門家と打ち合わせて事前に入念な検討をしなければならない。

    分筆で土地の形状を不正地形に変えて評価を下げる方法もあり、手放すときに一体の土地として売却すれば損失は生じない。

    土地の利用方法で評価を下げることも可能だ。例えば990m2で8910万円の土地に賃貸マンションを建てると、その評価額は更地のときの80%ほどになる。同じ敷地内に賃貸マンションの借主とは別の人が利用する月極め駐車場をつくると、評価額はさらに低くなる。この場合はフェンスなどで区切り、マンションと駐車場が別個の物件であることを明確にする必要がある。

    戸建住宅の住宅地にある広大地に該当する土地には広大地補正率がかけられ、評価額が大幅に下がる可能性もある。その適用にはさまざまな要件があるので、こちらも専門家への相談が不可欠だ。

    平成27年1月以降は小規模宅地等の改正も行われることになっている。住用宅地に係る限度面積が拡大し、居住用と事業用についてはどちらも限度面積一杯まで適用されるようになり、これによっても評価減となる場合がある。

  • 清話会セミナー’13年07月:講演要旨①

    【講演名】「生前贈与」から採る賢い相続税対策

    2013年7月に清話会にておこないました講演の要旨をまとめました。

    生前贈与から考える相続税テクニック

    構成:今野靖人(清話会)

    改正で4割減となる相続税の基礎控除額

    今年3月29日に税制改正大綱が発表され、相続税と贈与税の内容が大きく変わることになった。その改正のほとんどは平成27年1月1日から施行される。現状のやり方では通用しなくなる部分も多いので、改正の中身をしっかりと把握して節税対策に取り組んでいただきたい。

    相続税の改正のポイントは3つ。

    1つは基礎控除額の引き下げ。現行の基礎控除は5000万円+1000万円×法定相続人の数だが、改正後は3000万円+600万円×法定相続人の数となる。現状で相続人1人の場合6000万円まで認められていたものが3600万円、2人で7000万円までだったのが4200万円、3人で8000万円までだったのが4800万円と、控除額が4割もカットされることになる。この結果、現在は亡くなられた人の約4%でしかない課税対象者が約6%に増えると予測され、特に不動産価格の高い首都圏では14%にまで増加すると言われている。

    2つ目は相続税の税率構造の改正。これまで6段階だった税率構造が8段階に細分化され、相続額2億円超3億円以下は現行の40%から45%に、3億円超6億円以下は現行の50%からは60%に引き上げられる。

    3つ目は、小規模宅地等の相続税の課税価格の計算の特例の改正。こちらは減税措置で、原則として同居していた親が住んでいた宅地の評価額が最大80%減じられ、この措置の対象面積は240m2から330m2に拡大される。現行では親が老人ホームに入居していると適用されないが、親の住まいを貸家としていなければ特例が適用されるようになる。また2世帯住宅で親子の住居の入口が別になっていると同居とは見なされなかったが、今後はその場合も同居として扱われて特例が受けられるようになる。

    さらに、事業用の宅地と居住用の宅地がともに存在する場合の対象面積も拡大され、これらの措置を利用すれば大きな節税対策が可能となる。

    他に減税措置として未成年者控除・障害者控除の改正があり、現行却歳までの1年につき6万円までの控除額が改正後は10万円に、障害者控除は現行85歳までの1年につき6万円(特別障害者については12万円)の控除が改正後は10万円(特別障害者は20万円)に引き上げられる。

    一方の贈与税改正の大きなポイントは、直系尊属から20歳以上の者に贈与する場合とそれ以外の場合とで、税率区分が分けられることだ。例えば孫への贈与でない場合、現行では1000万円超は一律で税率50%・控除額225万円だが、1000万円超1500万円以下45%・同175万円、1500万円超3000万円以下50%・同250万円、3000万円超55%と累進構造になり、贈与額が大きいほど税率も高くなる。

    改正後の相続税率は6億円超で55%なのに、贈与税は3000万円を超えると55%となる。このように贈与税の税率は高く設定されているが、改正後の新しい税率区分を上手に活用すれば節税することは可能である。

    例えば2億3000万円の財産がある人に、3人の子と7人の孫がいるとする。贈与対策をしない場合の相続は、2億3000万円から基礎控除の3000万円+1800万円(600万円×相続人3人)を控除した1億8200万円が課税対象となり、この金額に対する改正後の税率は40%だから、5580万円の相続税を支払うことになる。

    このケースで生前贈与を活用し、相続税の40%よりも低い30%の税率が適用される700万円を孫7人に贈与することにしてみよう。

    暦年贈与の制度では年110万円の基礎控除額があるので、1人当たり590万円に対して30%、7人分で合計784万円の贈与税が課されることになる。2億3000万円から7人に700万円ずつ贈与した残りは1億8100万円。基礎控除の4800万円を引くと1億3300万円。これに対する相続税が3620万円で、784万円と3620万円を足すと4404万円。贈与しない場合の5580万円から4404万円を引くと1176万円で、これだけの節税になるのだ。この事例からもよく分かるように、今後は相続税と贈与税の税率を十分に吟味し、両者を上手に組み合わせて柔軟な対策を練ることが賢い節税となる。

  • 消費税増税:雑誌-先見経済’12年08月号掲載

    清話会発行の雑誌、先見経済の2012年8月号より「消費税増税 税率10%が企業に与える影響とは?」の特集において取材を受け掲載されました「消費税増税」の内容を転載します。


    緊急提言 税理士はこう読む!

    中小企業は海外に打って出よ 未来を悲観する必要はない

    日本の消費税増税は避けられない現実

    6月28日、消費税増税法案が衆院で可決された。2014年4月から8%に、15年10月から10%に引き上げられる。中小企業がこの増税分を価格に転嫁できなければ、深刻な影響を与えることになる。

    もともと消費税はフランス財務省の官僚が考案した間接税の一種で、1954年に世界で初めて導入された。日本では89年4月に商品やサービスの付加価値に課税するものとして税率3%でスタート。97年4月には5%に引き上げられたが、その直前に駆け込み需要があり、6月までは景気が十時後退するも、7月以降は導入前の水準に戻っている。これに付随して、98年ごろから法人税や所得税の減税措置が取られた。99年に「消費税の目的は福祉」との位置づけが明確になったが、社会保障・税一体改革はより広義の社会保障を想定したものだ。

    また他の税収とは違う消費税の特徴として、新規発生滞納税額の約半分を占めていることが挙げられる。2010年度は6836億円のうち3398億円が消費税である(財務省調べ)。これも中小企業の多くが消費税分を価格転嫁できない、つまり発生した損金分を価格に上乗せできないことが大きい。

    消費税増税に関して、IMFは日本の財政状況を踏まえ、「15年までには15%まで引き上げることが望ましい」としている。さらに経済評論家は「デフレ脱却が先で、名目利益が3%から4%に上がった時点で消費税を上げるのがベスト」という。増税が避けられない以上、私も引き上げには賛成だが、問題はその時期である。加えて、個人や低所得者に対しては給付型の税額控除が検討されているが、中小企業に対しては検討委員会設置が予定されている他は何も決まっていない点も悩ましい。

    ここで他国の消費税と食料品の税率を見比べてみたい。フランスの消費税は19.6%だが、食料品は5.5%である。ドイツは消費税19%、食料品7%。イギリスは消費税20%、食料品は非課税。成長著しい中国は消費税17%、食料品13%。いずれも食料品の税率が低いのは、低所得者の負担を減らすためだ。

    さらに消費税が国税収入に占める割合も、日本はフランスやイギリス、ドイツなどと比べて低く、ここでも税率を引き上げるべきとの結論に至る。これらの国では景気後退によって期間限定で消費税を引き下げる法案があり、すでに効果は出始めている。日本も増税とともに、景気動向によって減税を行うことも考えておかなければならない。

    中小企業は今こそ海外取引を始める好機

    では消費税が増税されたときに、中小企業が取るべき有効な手段とは何か。

    例えば輸出を行、大手企業には「輸出戻し税」という制度があり、増税で痛みを伴うどころか、逆に還付金が収入増につながる。大企業などはここで一定の利益を上げており、経団連が増税に反対せずに賛成する立場にいるのもこのためだ。一方、輸出をしない中小企業の多くはこの制度を知らないのではないか。最もつらいのは価格転嫁できない下請け企業である。

    そこで中小企業は大企業を真似して、資源の少ないタイやベトナムに製品を輸出し、現地で販売すればいい。もちろんそう簡単に海外取引を始めることはできないので、単独で無理なら複数の企業で協力して海外拠点を立ち上げることを考える。増税でメリットを出すには、輸出戻し税の恩恵を受けられる海外取引が有効だ。浜松市や前橋市など海外進出をあっせんしている地方自治体もある。

    別のビジネスモデルの例では、IT企業が海外で情報配信サービスを行い、日本でダウンロードされた場合は非課税となる。これは消費税の盲点を突いたやり方。ヘいろいろなビジネスモデルがあるので、中小企業は未来を悲観することはない。むしろ新しい事業を始めるチャンスだ。

    現代は大企業も競合企業との提携を強化し事業を行っている。そうした時代の趨勢を見極めることなく、守りに入った中小企業は弱体化していくのみだ。この価値観の転換が必要である。

    個人向けだけでなく企業の優遇措置強化を

    私が日本政府に要望したいのは、諸外国の消費税関連施策の良いところを積極的に取り入れることだ。

    例えば中小企業が海外でビジネスモデルを構築したら、期限を決めて助成金などを出す。ばら撒きはやめ、中小企業を助けて育てていく仕組みがあれば、消費税増税もより受け入れられやすくなるはずだ。

    消費税の税率は今後17%までは上がるだろう。消費税はあくまでも財源確保を目的としているが、同時にデフレ脱却、また官僚機関のスリム化を図らなければ何も変わらない。野田総理や厚労省は財務省に踊らされており、なぜ消費税をこの時期に上げる必要があるのか、なぜ一体改革法案なのか分かりやすく数字で説明すべきだ。総理の思いが伝わってこない。今回も消費税増税以外の議案は先送りされている。リーダーシップを取れる国会議員が現れて欲しい。

    いずれにしても、今の日本は所得税、消費税、相続税を上げる社会システムがあり、個人が手元にお金を残していても税徴収されてしまう。そこでお金を積極的に使い、世の中のお金の循環を活発化することで、企業も潤い発展するのだ。

    同時に、企業に対する優遇措置として、法人税を下げるなどの税制システムをつくる。消費税、所得税、法人税を3本柱とした中小企業が有利となる施策が必要だ。例えば大企業の利益を中小企業や下請け企業に分け合う仕組みづくりや、法人税と同様に消費税も利益に連動させて下げる、分割消費税の支払期日を延ばす、納められない分は減税するなど、国がやれることはたくさんある。

    その財源として、高齢者の年金を減らすことも考える。社会保障・税一体改革法案は高齢者に手厚い優遇措置を取るものだが、その場しのぎの政策では、今の若い人たちが将来高齢者になったときに何の思恵も受けられない。輸出戻し税の大企業への還付金を減額する手もある。

    繰り返しになるが、中小企業は価格転嫁できるかが生き残りのカギとなる。価格転嫁が難しい立場なら、しなくても問題のない財務体質をつくる。この点を踏まえた事業計画をきちんと策定し動いている企業は、たとえ消費税が20%になったとしても必ず生き残れるはずだ。

    出典:先見経済Aug. 2012

  • 清話会セミナー’11年06月:講演要旨⑤

    発展する会社・お金を残す節税とは

    2011年6月に清話会にておこないました講演の要旨をまとめました。

    知っておきたい節税テクニック

    さらに細かい節税方法をいくつか紹介していきたい。

    まず役員報酬の設定について。所得税は超過累進課税方式であるため、役員報酬が上がれば税金も高くなる。ただし役員報酬を多く払うと、今度は会社が支払う法人税が下がる。

    この収支を計算すると、役員報酬を1200万円払ったときよりも、1500万円払ったときのほうが税金の総計は安くて済む。2000万円ではさらに安くなる。2400万円支払うと今度は増額となるので、2000〜2400万円が最適な役員報酬であると分かる。このような精査を常に行い、役員報酬と会社の利益をセットで考えることで可能になる節税もあるのだ。

    社員の人件費でも節税の施策を打てる。簡単なのは社員を雇用契約から請負契約に変更するもの。すると人件費が消費税対象となる。また、利益が出た場合は決算賞与を出すのも手であり、利益を圧縮するための1つの方法となる。社員のモチベーション向上につながるメリットもある。

    「逓増定期保険に年払いで契約する」ことにも魅力がある。逓増定期保険は、保険料の半分を損金に計上できる。

    ポイントは「年払い」であり、一括で年払い契約するとその総額の半分が経費扱いとなるので、利益の圧縮に効果的である。保険を解約した場合は解約返戻金から資産計上額を除いた金額が利益となる点に注意が必要だが、会社に損失が出た期に保険を解約して補填することも想定し、長期的視点で検討したい。

    さらに、売上債権の貸倒損失も知っておきたい。これは、売掛債権について「取引停止後に1年以上経過するなど一定の事実が生じた場合」は貸倒損失として計上できるというものだ。

    経営者の退職金を用いた節税もある。退職金には、退職金から控除額を引いた額の1/2である退職所得に対してのみ税金かかる。

    退職金として会社から経営者へお金が渡る際の税金は報酬にかかる税金に比べ安く、支給自体が効果的な節税となる。

    また、退職金の原資に解約した生命保険を充てることも可能。死亡時の弔慰金の支給規定をつくれば、役員の死亡時に退職金とは別に弔慰金を支給できる。遺族が受け取る弔慰金にも相続税はかからないので節税となる。

    ポピュラーな施策としては、贈与税の非課税枠の活用がある。年間110万円までの贈与は無税であり、同枠を長期間使い続ければまとめて贈与や相続するのに比べ、大幅な節税となる。

    「預金間で振り込む」「贈与契約書を取り交わす(贈与者は保管しない)」「毎年同じ額にしない」などの点に注意したい。

  • 清話会セミナー’11年06月:講演要旨④

    発展する会社・お金を残す節税とは

    2011年6月に清話会にておこないました講演の要旨をまとめました。

    いい節税としてはいけない節税

    さて、このような状況下で、これから経営者はどんな節税ができるのか。

    具体的な施策についてお話する前に、節税には「いい節税」と「やってはいけない節税」があることをご確認いただきたい。

    節税の目的は「出ていく税金を減らしてできるだけお金を残すようにする」こと。当たり前のように聞こえるだろうが、ここを履き違えてはならない。あくまで税金を減らすことではなく、お金を残すことに集中すべきなのだ。それが資金繰りを改善し、財務を健全化して、経営の安定、企業発展へと結び付く。真の節税の目的はここにある。

    利益を圧縮するために無駄な経費を使えばお金は減る。これは意味のない節税=「やってはいけない節税」と言えよう。

    目的を見失った節税ばかりしていると、利益を生まない体質が会社に染み込んでしまう。儲かっている分、節税の名の下にどんどんお金を使ってしまう。結果として、税金を払うための資金繰りが大変になる。

    「やってはいけない節税」ばかりに取り組み、企業の発展という目的を見失ってしまっている会社は少なくない。税金を素直に払ったほうが多くお金が残ったというケースもある。日本の法人税は41%で国際的に見て高いが、利益の60%近くは残る、という視点も必要だろう。

    では、「いい節税」とはどんなものなのか。基本は「将来利益を生む可能性のあるものに投資する」ことで利益を圧縮するもの。

    例えば広告・宣伝がそう。宣伝のやり方によっては、顧客を見つけ出すことができるため、紛うことなき利益を生む可能性のある投資となる。交際費で飲み食いするより、よっぽどいい。また、人材育成も将来的に利益を生む投資になるだろう。

    固定資産も同じ考え方でいい。儲かったからリゾートマンションやクルーザーを買ったという話も聞くが、それらは資産ではあるが、利益を生まない。「負債とは何か」と聞かれたとき「借金」と考える人は多い。でも、利益を生まないものはすべて負債なのである。

    税法の解釈について見直すのも「いい節税」となり得る。

    交際費、寄付金、期限付きの措置法などについて、税理士と相談し解釈を正すことで、交際費が損金算入できたり、寄付金がすべて費用として認められることがある。期限付きの措置法には「中小企業等投資促進税制」など一定の条件を満たせば特別償却や税額控除が認められるものがある。そうした措置法をうまく活用するのも「いい節税」である。

  • 清話会セミナー’11年06月:講演要旨③

    発展する会社・お金を残す節税とは

    2011年6月に清話会にておこないました講演の要旨をまとめました。

    震災後に示された新たな3つの方針

    そこに東日本大震災が襲ったのである。甚大な被害からの復興策を鑑み、国は6月10日、あらためて増税に関する3つの方針を発表した。

    まず「社会保障と税の一体改革」。消費税率を2015年度までに段階的に10%まで引き上げると同時に所得税、相続税の増税も行い社会保障を実現するもの。

    次に「東日本大震災の復興財源の確保」。復興に必要な税収は10〜15兆円と言われている。これを捻出するために、所得税と法人税の臨時増税を行うものだ。1割程度の増税率になるとみられている。

    そして「B型肝炎訴訟の和解金のための増税」。これも所得税、法人税の臨時増税によって賄うものとみられる。

    方針は出たが、具体的な話はまだ進んでいない。消費税は上げるだろうが、どの程度上げるかはまだ不明。これまでと同様の上げ方をすれば、被災地にも負担がかかるため、簡単ではないはずだ。

    復興財源として所得税、法人税を1割上げると、年間2兆円程度の税収増になると言われている。復興財源の目標を10兆円とするなら、5年はかかる計算だ。ちなみに消費税を10%にすると、年間2・5兆円増えると見込まれており、これを復興財源に回しても4年はかかる。震災対策の増税は一定期間必ず行われると考えておいたほうがいい。

  • 清話会セミナー’11年06月:講演要旨②

    発展する会社・お金を残す節税とは

    2011年6月に清話会にておこないました講演の要旨をまとめました。

    相続税はなぜ増額されるのか

    相続税については、増税となるだろうとする内容を解説したい。

    まず、基礎控除と死亡保険金非課税額を決める際の条件が変わる。基礎控除は減額される。

    1世帯当たりの定額控除は現行では5000万円だが、これが3000万円になるとみられていおり、実に4割カットとなる。そして比例控除は1人当たり1000万円から600万円となる。

    奥さんがいて、子どもが2人いる家庭ならば基礎控除は定額控除5000万円、比例控除1000万円×3人=3000万円となり、計8000万円だった。それが、定額3000万円、比例600万円×3=1800万円。基礎控除は合計4800万円となり、3200万円減となる。

    さらに相続税率も変わる。相続する資産が1億円までならばそのままだが、2億円以上3億円以下なら45%と5%アップする。3億円以上6億円以下は変わらず50%だが、6億円以上だと55%とやはり5%上がる。

    現在、相続税を納めているのは国民100人当たり約4人、割合にして4%。今回の改正案が実施されるとこれが約6人、割合にして6%まで増えると財務省は試算している。これまで相続税が一番低かったのは1968年の2・1%であり、それを考えると4%の税率はそこまで低いものではない。にもかかわらず、税率をさらに上げようというのだから、厳しい時代になったものである。

    とはいえ、資産を持っている方ならば、相続は、1度は通らないといけない道である。日ごろから自分の資産はどの程度あるのか把握し、早いうちから相続に向けた準備を賢く進めておきたいものだ。税理士に相談し、資産を次の世代に効率的につなげるための対策を施す。税金を現金で支払えず、土地などを物納する事態は何としても避けたいものだ。

    今回減税の公算が強い贈与税は、もらう人によって税率が異なることになりそうだ。「父母から20歳の子」がもらう場合、現行と改正案で税率が変わる。700〜800万円程度を贈与する場合、減税率が20%を超え最も高くなる。

    このメリットは大きく、資産を持つ経営者の方が、子どもにビジネスをさせるようなときには、銀行通さず資金調達するやり方も出てきそうである。

    これが、国が示す税制改正の大まかな方向である。少し前まで国はこのような絵を描いていた。

  • 清話会セミナー’11年06月:講演要旨①

    発展する会社・お金を残す節税とは

    2011年6月に清話会にておこないました講演の要旨をまとめました。

    税制改正大綱にみる国の思惑と税収増

    現在、日本の財政状態はかなり厳しい状況にある。60兆円あった税収は40兆円にまで減少した。この先、日本が前進するには税収を上げざるを得ない。3月に東日本大震災が発生し、見通しははっきりしないが、税制改正が増税となるのは間違いないだろう。

    改正内容を考えるうえでヒントになるのは、国が発表済みの「平成23年度税制改正大網」(改正に向けた中間報告)だ。震災前につくられたものだが、どんな内容だったのか。

    まず、与党が選挙に失敗したため、消費税については触れていなかった。
    法人税率は5%下げることを示唆。一見喜ばしく聞こえるが、よく読むと違う。国は法人税収を減らしたくないので、税率は下げながらも、同時に減価償却の範囲を狭めて課税対象となる収入は確保しようとしたのだ。結果的には減税とは言えず、横ばいか増税になることもあり得る改正のようだ。相続税は増税する方針が示され、一方で贈与税は一部緩和し、贈与したくさせている。

    現在の日本人の平均寿命は80歳前後なので、資産が親から子に渡るのは、子が60歳ごろというケースが多い。そうではなく、消費に積極的な30〜40代のうちに、子にお金が渡るようにして、どんどん使ってもらい、税収入につなげたいというのが国の思惑だ。

    相続税はかなり高くなるようだ。これからの節税を考えるうえで、この相続と贈与をよく知ることが重要なポイントとなる。

    所得税については、従来制度では収入が増えるほど控除額も増えていた。改正案ではこの上限が提示された。年収1500〜2000万円以下の収入の場合は一律245万円控除される仕組みが検討されている。2000万円を超える収入のある場合はそこから減額されていき、年収4000万円以上だと一律125万円しか控除されない。245万円の約半分。高収入者には厳しい改正となる。

    役員報酬もさらに厳しくなった。役員を務め年収2400万円のケースで計算してみると、現行と比べて年間46万5000円もの増税となる。4000万円を得る場合、この倍になるという計算である。もしこの大網が現実のものとなったら、役員報酬の中身については、再考すべきかもしれない。

  • 清話会セミナー09/12:講演要旨⑥

    今の時代こそ必要な税の知識と利益を生むしくみ

    2009年12月に清話会にておこないました講演の要旨をまとめました。

    決算書の分析をシミュレーション

    ここまで、貸借対照表から分析することを紹介しましたが、決算書の分析方法はそれだけではありません。ほかにも、いろいろな見方をしてみることをお勧めします。

    部門別や事業別、変動費と固定費で分類して分析することもできるでしょう。
    また、改善ポイントを見つける分析だけでなく、仲びている数字をさらに仲ばすための分析もあります。

    私がお勧めしている分析方法の1つに、「粗利を1%上げるとどうなるのか」「固定費を1%下げるとどうなるのか」など、決算書でいわば「シミュレーションゲlム」をしてみることがあります。

    これをお勧めしている理由は、例えば、人員削減をせずに乗り切る方法などを、さまざまなパターンでシミュレートすることで発見できる可能性があるからです。

    私個人としては、経営状態が厳しくなったとき、真っ先に人員削減を行うのは、これまで育ててきた人材の損失という音山味で、結果的に経営状態の回復を遅らせることになると考えています。経営状態が上向きになり、「さあ、これから」というときに、また一から新しい人材を育てていくのは時間もかかり大変な仕事です。

    いずれにしても、この「シミュレーションゲーム」は、経営計画を立てる際にも、立てた後の確認にも使えますので、ぜひ試してほしいと思います。こうしたなかから、売上が50%ダウンしても利益が生み出せる経営計画を立てることが可能になるかもしれせん。

    結びに、税理士として、経営者の皆さんにお伝えしたいことがあります。それは、節税が先にあるのではなく、まず会社として利益を生み出すしくみをつくることが重要だということです。しっかりと利益を生み出し、きちんと納税する。これが成り立たないことには社会が成立しません。

    私たち税理士の仕事は、利益を生み出した会社が、適正な納税額となるように考えること。それが節税のあるべき姿だと考えています。そのために、顧問税理士には納得できるまで何度でも質問してください。そうしたコミュニケーションが経営者と顧問税理士の信頼関係を築くことにつながり、節税対策に結びつきます。

    今日の話が、皆さんの会社の利益を生み出すことに役立てば幸いです。

  • 清話会セミナー09/12:講演要旨⑤

    今の時代こそ必要な税の知識と利益を生むしくみ

    2009年12月に清話会にておこないました講演の要旨をまとめました。

    利益を生むしくみは「組織」づくり

    税について押さえてほしいポイントはひととおり説明しましたが、その知識を活かすには、皆さんの会社に「利益を生むしくみ」がつくられていなければなりません。そのしくみのつくり方について、いくつかのヒントを紹介します。

    私が考える利益を生むためのしくみには、次の3つのポイントがあります。

    ①「感じて、考えて、行動する」
    ②「人脈づくりと人材育成」
    ②「経営計画をつくる」

    ①は、日ごろから売れるものやサービスを見つけるための「感性」を磨き、どうやったらそれを売ることができるのかを「考えて」、それを素早く「行動」に移すことです。

    ②は、人と人とのつながりを大切にすること。まずは、社内外を問わず、できるだけたくさんの人と情報交換を行うことです。多くの情報を得ることは、それだけ新しい商品やサービスを生み出す機会を増やします。
    また、社内においては、人材育成を積極的に行わなければなりません。人材が育たなければ、生産性は上がらず、利益は生まれません。

    ③は、経営計画の捉え方です。
    利益を出すための方法を徹底的に考えたうえで、計画をつくる姿勢を持ち続けることです。この3つのポイントをセットにして取り組んでいくことで、利益を生むしくみがつくられていきます。

    勘のいい方は気づかれたと思いますが、これは「組織づくり」そのものですっ私が考える利益を生むしくみとは、付加価値を生み出せる組織をつくることにほかなりません。

    そして、組織づくりの設計図ともいえるのが経営計画であり、経営計画を立てるために必要なのが決算書の分析です。

    決算書は、いわば会社の健康診断書。それを細かく分析していくことで、会社のどこに問題があり、どう改善すべきかがわかるのです。

    ただ、1つだけ注意してほしいことがあります。それは損益計算書ではなく、貸借対照表をもっとも重視することです。経営者は損益計算書を一番気にしがちですが、そこに記載されているのは、貸借対照表と連動した、具体的で詳細な「結果」です。

    もちろん、結果から分析でさることもありますが、決算書の分析は「利益を生み出すための経営計画」をつくることが目的。そこには、新しいことにチャレンジしようとする前向きな思考(私はそれを「未来思考」と呼んでいます)が必要です。

    貸借対照表には、経営者の考え方や在り様が表れています。例えば、表中の「資産の部」で同定資産の金額が大きければ、資本力があることがわかります。

    一方、「負債・資本の部」で長期負債があれば、長期借入ができるだけの信用力があることがわかる。

    そうして読み取ったことを組み合わせていくと、この資産と高い信用力を活かして何ができるのか、とイメージを膨らませていくことができます。ですから、まずはじっくりと貸借対照表を見てください。新しい発見があるかもしれません。

    ともあれ、要は「結果」である損益計算書からではなく、経営者の考え方が見える貸借対照表から分析をはじめることで、

    経営計画が前向き広利益を生み出そうとするものになるのです。

    つづく